3月26日 日
朝食の終了時間ぎりぎりにレストランに行ったら、もうランチの準備を始めていた。一瞬時差修正を間違えたか?と思ったが、奥の部屋ではまだやっていた。だんだん朝が起きられなくなってきた・・・。
ウェイターはやはり高い声でひそひそ喋っている。駒崎さんはタブロイド誌を漁っている。今日はあちこちの新聞にヴァスティッチが出ていた。ほんとに地元では有名人なのねー。日本ではなかなか情報も入らないものねえ・・・。
クロアチアから来た電車
グラーツでの用も済んだので、懐かしのウィーンに帰還。旅程もあと2日を残すのみ、もう一頑張りだー。
帰りの電車はICクロアチアという変哲の無い名前で、隣国クロアチアから、オーストリアを抜けていく路線だった。
自由席でもコンパートメントなうえ、空いているので6人用の個室を占領、スーツケースも椅子に座らせる。こうすれば家出も出来ないだろう。
各個室にはタイムテーブルが置かれていたが、生まれて初めてクロアチア語(ってあるの?)を目にした日本人には、何にもならなかった。せめてドイツ語版もおいて欲しい。ウィーンという地名すら読めないんだもん。
ホテル・グラーベン
今度の宿は「ホテル・グラーベン」。市内中心にあってシュテファン大聖堂やケルントナー通りもすぐそばだ。50数室の小さなホテルで、ちょっとわかりにくい。タクシーの運転手は地図を見ながら強引に車を進めていたが、どうも一方通行だったらしく、現場は混乱していた。
入り口を捜して入ると、前に泊まったカイザーホフと違い、中もきちんと古かった(笑)。アラブ人のポーターが怪しい日本語を連発しながら、荷物を運んでくれる。
螺旋階段の中央部分に、ぴったりはまって作られた小さなエレベーターは、三人乗ると満員になる。ドアが手動で、廊下側にしかついていないので、移動中は床や天井の断面が前を流れていくのだった。
部屋のドアを空けると、1メートルくらい先に又ドアが。これなら廊下の音も聞こえないだろうな。物書きに人気があったホテルというのも頷ける。せっかくの2重ドアだが、面倒くさいので開けっ放し。まあ、寝るときに閉めればいいや。
家具もアンティークで、クロゼット(たてつけは悪かった)、ドレッサー、ベッドはお揃いの、あめ色の寄木細工。天井には小さなシャンデリア、窓に向けて置かれたデスクも美しい。
←グラーベンホテルの家具
トイレとバスが別なので喜んでいたら、トイレに手洗いがないので、結局バスルームに行かねばならない。誰かがお風呂に入ってるときトイレにいけるのは便利だけど、どうせなら手洗いもつくればいいのに。こっちの人はあまり手を洗わないのだろうか・・・恐ろしい。トイレの壁は小さなタイルで飾られていて、可愛らしい。
入り口脇には、カフカと批評家のP・アルテンベルグが定宿にしていたというプレートが張ってあるので、弥生さんと記念写真を撮る。それを見ていた白人の旅行者も写真をとっていた。私達ってトレンド・セッター?
呪い、再び
ウィーンに来て一週間にもなるのに、ようやく「シュテファン大聖堂(清水寺みたいなものか)」を見学。
地下にあるカタコンベ(歴代皇帝の内臓が収められている)の見学ツアーが始まるのを待っていたら、駒崎さんがお腹が痛くなったので、明日に延期。ウィーンに戻ると同時に、オイゲン大公の呪いが復活したらしい。
座って休もう、ということになったので、ここぞとばかりに、ザッハホテルのティールームへ先導。
ウィーンといえばザッハトルテ!食べずには日本の土を踏めまい。その昔デーメルと熾烈な著作権争いを演じたという、因縁のケーキだ。
ザッハ・ホテルは国立オペラ座の裏側にある、万国旗のかかった5つ星ホテル。入り口はそれほど大きくない上、幅広のドアマン(広いのはドアでなく体。しかも顔が怖い)が立っていて、中の様子がわからない。ロビーを覗いてカフェに行こうと思ったのに、入り口は別々になっていた・・・。ザッハトルテを食べに来た観光客が、泊り客の邪魔をしないようにしてるらしい。読まれていたか。
カフェは観光客で一杯(当然日本人多し)。半強制的にクロークで荷物を預けさせられ(しかも有料)、席の詰まった店内へ。たしかに椅子に荷物置いてるような余裕はなさそう。カフェの伝統にのっとって、色々な新聞が置いてあるが、当然ドイツ語ばかり。「新聞は?」というウェイトレスに悲しい笑顔を向けるのだった。
さて、注文はもちろん、ザッハトルテ。さらにザッハコーヒーも。コーヒーに甘ーいザッハリキュールが添えてある。砂糖代わりに入れて飲むんだろうか。
しかし、一緒に食べるのは、甘いチョコレートスポンジに、甘いチョコレートシュガーがコーティングされ、甘いチョコレートが載っている、あの!ザッハトルテだ。コーヒーまで甘くする必要がどこにあるというのか。結局リキュールはほとんど使わず、ザッハコーヒーはただのコーヒーになってしまった。
恐怖のザッハ−トルテ→
聞きしに勝る、その甘さ。眼から砂糖汁の涙が出そうだ。歯の間で、砂糖がじゃりじゃり音がしている気がする。こんなに甘いものを食べたのは、多分生まれて始めて・・・。
ふわふわのホイップクリーム(砂糖抜き)が山のように添えられていて、最初はこんなにたくさんどうするんだ、と思っていたのに、ケーキの甘味をクリームで誤魔化していたら、足りなくなってしまった。
上品なカップに注がれたコーヒーも残り僅か、頼るのは水しかない。やはりザッハトルテを頼んだ弥生さんも苦戦の様子、だがここで引き下がるわけにはいかん、と悲壮感を漂わせてケーキを口に運ぶのだった。
一人アプフェル・シュトゥルーデル(リンゴのパイ包み)を食べていた駒崎さんは、大分ましなようだったが、それでも苦労していた。一気に血糖値が上昇したにちがいない。
トイレに行くと、扉に書いてあるドイツ語が読めないので、誰かが出てくるのを待って、女性が出てきた方に入った。そういえば今まではイラストのあるところばっかりだったんだ。やはり最低限の現地語は覚えていくべきね。
ドアを開けてくれるウェイターが、随分長い挨拶をしている。「サンキュー・グッバイ・ダンケ・アウフヴィーダーシン」と一息で言っているのだった。その間2秒。あまりの早業に、咄嗟に返事が返せなかった。
音楽の都
日本でも、毎年元旦に生中継されている、ウィーン・ニューイヤー・コンサートというものがある。かのウィーン・フィルハーモニーが、本拠地であるウィーン樂友協会ホールで、『美しき青きドナウ』などを演奏するのだ。新年を祝うため、花々で飾られた黄金のホールは実に美しく、いつか行ってみたいと思っていた。
弥生さんが取ってくれたチケットは、今晩のメインホール。シェスタコーヴィチと、指揮者の自作曲という、モダンな選曲だ。演奏は、やはりここを本拠地にしているウィーン・シンフォニー・オーケストラである。音響の良さには定評のあるホールなので、オーケストラなのが嬉しい。
威風堂々としたオペラ座に比べて、樂友協会ホールは控えめな建物だった。ロビーも広くは無く、照明が抑えてあるせいか、優しい雰囲気。舞台も客席も小さくて、オーケストラがはみ出しそうだ。黄金色に装飾されたホールは、テレビで見た印象とは違って、鈍い光を放っていた。あのキンキラキンはライトのせいだったのね。
オペラ座と同じく、ここにも日本人は多かった。それはいいんだけど、右前方にかためられていたのが、不審。日本人コーナーだったのだろうか。
ケンタッキーの人形(カーネル・サンダースだっけ)に似た指揮者が入ってきて、演奏が始まった。音が実態を持って、ホールの隅々へ広がっていくようだ。椅子はあまりよくないし、舞台が高すぎて客席から見難いなどの点はあるのだが、そんなことはどうでもいいという気がしてくる。包み込むような柔らかい音響が、CDのシャープでクリアな音を聞きなれた耳に、新鮮だった。
コンサートマスターは穏やかな笑顔を湛えた、大柄な人で、第1ヴァイオリンの前列に陣取っている。始まってすぐに、彼のヴァイオリンの出す音が、際立って美しいのに気がついた。全体で演奏しているときでも、その音だけを拾えるのだ。深く艶やかな飴色をした彼の楽器も美しかった。
後半は、指揮者の自作曲。打楽器を効果的に使って、民族音楽のような単調なリズムを多用した曲。大音量だったにも関わらず、素晴らしい催眠効果を発揮した・・・ごめんなさい、前から5列目で寝てました。しかし気持ちよかった(笑)
終演後、楽屋口で指揮者を待つ人々を見つけたので、その中に混じる。目当てはもちろん、コンマス。弥生さんと二人、指揮者に目もくれず、彼の元へ行って握手してもらった。笑顔が素敵〜〜〜(ばか)
ウィーンの夜は更けて3
今日は観光客に徹する日、というわけでもないのだが、ガイドブックでチェックしたレストラン「パウルスシュトゥーベ」へ。地元料理に生演奏がつくという、イタリアとかで、カンツォーネ・ディナーとかあるでしょう、あの類。ツアー客ばかりかも、と覚悟していたら、時間が遅いせいもあってか客はまばら。
ハヤシライスのハヤシに似た、子牛肉のグラーシュにニョッキを添えたものにオーストリアワイン。観光客向けだと思い、あまり期待してなかったのに、美味しかった。音楽と疲労のせいか、心地よく酔いがまわる・・・やばい。妙にご機嫌な私達のテーブルを、向かいの席の二人連れのおじさんが、ちらちら見ている。
一服した二人は立ち上がると、おもむろにピアノとヴァイオリンの元へ。レストラン付きの楽師だったのだ。私達のテーブルはピアノのすぐ側だったし、店内に東洋人は他にいなかったので、しっかり眼をつけられ、視線がびしびしやってくる(笑)
ヴァイオリンがリードし、ピアノがフォローする。ヴァイオリンは弾きたいように弾いているようにしか見えないが、呼吸はぴったり。もちろん、それほど上手ではなかったけど、酔っ払いには十分でしょう。
演奏しながら近寄ってきたヴァイオリンのおじさんが、「日本人?食事は美味しい?旅はどう?」などと聞いてくる。「日本人だ」と言うと、『上を向いて歩こう』を弾いてくれた。スキヤキソングは偉大だなあ〜。
歌え、というので勢いで一緒に歌う。なんだか顔がポカポカだ。弥生さんが、ヴァイオリンを習っているというと、弾かされていた。おじさんの楽器は30万円くらいだそうだ。楽器って高いな。
御飯も美味しかったし、演奏は楽しかった。勘定と別にピアノの上にもチップを置く。おじさんが頬にお別れのキスをしてくれたが、髭がチクチクして痛かった。