3月24日 金 ほぼ晴れ

 今回の旅の最大の山場、それはオーストリアリーグのサッカークラブ、シュトルム・グラーツ(日本名:嵐を呼ぶグラーツ)の試合観戦である。
 面食いの駒崎さんはチームのキャプテン、イヴィカ・ヴァスティッチのファンで、彼の美貌を拝むため、遠くオーストリアまで飛んで来たのであった。
 日本での数々の苦労も実を結ばず、未だ試合のチケットは入手できず。それどころか、ウィーンですらグラーツのチケットを買うことはできなかった。果たして無事に生ヴァスティッチを見ることができるのか・・・?

グラーツへやってきた!

 ホテルをチェックアウト後、タクシーでウィーン南駅へ。
 電車の切符を買って掲示番を見ると、ヨハネス・ブラームスとか、ロムルスなどと書いてある。訳もわからずプラットフォームに行ってみたら、ヨハネス・ブラームスが停車していた。電車の名前だったのか・・・。

 二人がけの席を向かい合わせにして、4人席をつくって占領、座席の隙間にスーツケースを押し込む。
 駅で買ったピザパンを食べたりしながら、のんびり。列車の方が、旅行気分が盛り上がるのは何故だろう。パンも美味しくて幸せ。

 グラーツに行くには山越えをするので、上りが続く。窓の外のスキ―リゾートの景色を楽しんでると、何かが通路を通り過ぎていった。
 青くて四角い・・・待て次郎(私のスーツケースの名前)、どこへ行く!!
カーブが多い坂道だったので、スーツケースが流れ出してしまったらしい。慌てて回収してると、近くの席のおじさんが笑っていた。ビールなんか開けちゃって、ご機嫌のようだ。

 元に戻して安心する間もなく、次郎、今度はマーキー(駒崎さんのスーツケース)と連れ立って出て行った。家出くらい一人でしろ〜!
 ガコンガコンとぶつかりながら逃げるスーツケースを、又追いかける。通路が狭いので追い越しができず、手前の一つを止めてる間に、もう一つは更に遠くへ。
 何となくおじさんを見ると赤い顔で笑っていた。一人旅のオヤジにささやかな娯楽を提供したようだ。おっちゃん礼はいらないぜ、と勝手に恩を売る。

 グラーツの駅は予想に反して、近代的だった。もっと田舎かと思ってたら、オーストリアでは2番目の都会らしい。お見逸れしましたー。

 予約したホテル・ダニエルは、駅の並びのビジネスホテル。便利だけども、隣がポルノ専門映画館で、前を通るのに気が引ける。といいつつ、ついつい看板を眺めてしまう我々だった。やはりゲルマン系は、迫力があるな。ちなみに映画館の名前は「ノン・ストップ」だった。一体何が「止まらない」のかは気にしないことにしよう。

 チェックインして、フロントで駅の側にあるという、シュトルム・グラーツのファンショップの場所をきく。当初、明日だった試合は、旅行の申し込みをした後で、今日に変更になっていた。おかげで当日グラーツ入りという冒険をする羽目になっていたのだ。にわかにあせりが出てくるが、ファンショップでチケットが買えるはず、とフロントは言う。やれやれ。

 ・・・買えなかった。当日券だからなのか、スタジアムで直接買えとのこと。今度はスタジアムへの行き方を教えてもらう。まるでオリエンテーリング。駅から市電に乗って、ヤコミニプラッツでスタジアム行きに乗り換えれば着くらしい。

シュワちゃんはグラーツ出身

 アーノルド・シュワルツェネッガー・スタジアム。略してシュワちゃんスタジアム、というのが、目的のシュトルム・グラーツのホーム・スタジアムである。ところ狭しとシュワちゃんグッズが飾ってあるかと思ってたのに、全然見かけなかった。シュワちゃんファンの友だちに写真を見せたかったのにな。

 売店や屋台は準備中だったが、チケットオフィスは開いていた。ようやくチケットが買える〜〜〜!この数ヶ月、キリキリさせられていた駒崎さんは、珍しく興奮状態だ。高くてもいいから、良い席で見たい!

 それなのに、受付のおばあちゃんは英語がさっぱりらしく、そして私達が貧乏だと思ってくれたのか、ゴール裏の安い席を売ってくれた・・・。ゴール裏はー、ファンが暴走して怖いからー、嫌なんだようー。しくしく。
 隣の受付の若いお姉さん(年下かもしれないが)に訴えると、彼女は英語がわかるようで、別の席に替えてくれた。残念ながら一番高い席は売り切れていたので、中間の席(約2000円)。まあ、取れただけ良しとしよう。

 急に安心したら、何をしたらいいのかわからなくなってしまったので、旧市街をぶらぶらすることに。赤い瓦屋根の建物がたくさんある、可愛らしい街並みが続く。世界遺産登録に申請中なのだそうだ。石畳の坂道を登っていくと「ボディショップ」や、ポップスメインのCD屋など、どこにでもありそうでウィーンでは見かけない店を発見。クラシックの専門店はやたらあるんだけどねえ。結局滞在中に、セブン・イレブンを一度も見なかったしなあ。

パン屋さん ガイドブックに載っていた、カイザー・ベーグルを開発した由緒あるパン屋を通ったので、併設のカフェで一休み。飲むのはもちろん、メランジェ。日本のコーヒーほど苦くなくて、コーヒーが苦手な私でも美味しく飲める。帰国後「カフェ・ウィーン」に行ってみたけど、味が違ってがっかりした。多分水のせいだと思う。紅茶も日本で入れると渋くなっちゃうからなあ。
←カイザーベーグルのパン屋さん

 カフェではやたら陽気な酔っぱらいの爺さんに目をつけられて、周囲をぐるぐる歌ったり踊ったりされる。
 それ程汚くはないけど、もしやホームレスか?ドイツ語でしきりに話し掛けられるも、分かるのは「ヤーパン(日本)」だけ。なんせ相手は酔っ払い、下手に刺激したくない。

 困り果てていると、若くて美人のウェイトレスが、爺さんを嗜めてどこかへ連れて行ってくれた。その神々しい姿は、我々の目に聖母のように映ったのであった。感謝の言葉と、ちょっと多目のチップを置いて、店を出る。人の情けが身にしみるぜ・・・。

 通りすがりの大聖堂に入ると、これがまた古くて立派で、またもやグラーツを見直す。よっぽど何にも無いところだと思ってたらしい。ごめんね、グラーツの人々。
 「ドロテウム」というオークションハウスのショーウィンドーを眺めていたら、以前香港の土産物屋で買った、果物の形の指輪ケース(10HKドル=約150円)が、出品されていた。最低落札価格は、40オーストリアシリング(350円くらい)。微笑ましい競りになりそうだ。幾らくらいで売れるのだろうか。

ヴァスティッチ、大活躍!?

 キックオフの30分前にスタジアムに着くと、先刻とは打って変わって、人だらけ。成人男性はもれなくビール片手にご機嫌状態、奇声を発する若者も多し。ひしひし、と盛り上がりを感じる。

 適当な手荷物検査を受けて入場すると、選手が練習を始めたので、早速チェック!
劇場用に買ったのに、倍率が高すぎてほとんど役に立たない双眼鏡が、ようやく威力を発揮した。

「あの靴下下げてシュート練習してる人、ヴァスティッチじゃない?」と駒崎さんに教える。途端、シュートをゴールの外に蹴り上げるヴァスティッチ。
 サイドの選手(マルクス・シュップか、マルクス・ショップ。紛らわしいんでどっちか移籍してくれないかな<ひどい)は、地面にボールを置いたまま、センタリングを上げる練習をしている。

 そんなんで大丈夫かしら、と思っていたら、試合でのドリブルからのセンタリングは、思いっきりゴールラインを超えていってしまった。止まってるボールじゃないと、上手く蹴れないのね・・・。
 今日の相手はラピッド・ウィーン(日本名:ウィーンの跳ぶが如く)、リーグ上位に位置する強敵だ。わざわざ日本から来て、負け試合は見たくない、と不安が募る。

 最初に買わされたゴール裏の席を見ると、応援グッズを身に付けて、大太鼓まで持ち込んでいる熱いファンがいっぱい。ああ、平和な席が取れてよかったあ。

 試合開始。0−0が続くも、ラピッドが押している。よく組織された、まとまったチームだ。比べてシュトルムは何だか連携が悪い。前半35分、フォワードのヴァスティッチが、相手ディフェンスに倒されてPKをもらい、これを得点。ようやく先制する。前半はこのまま終わらせたいところ、と思っていたが、敵もさるもの。1点返され、1−1で前半終了。

 後半、ホームのシュトルムが調子を取り戻し、ラインマイヤーが流れから1点追加、2−1。さらにヴァスティッチがもう一点取って3−1にすると、スタジアムはすっかり楽勝ムード。客席からはイヴォ(ヴァスティッチの愛称)コールも沸き起こる。恐らくスタジアム内ただ3人の日本人も「あと一点なら差し上げてもよろしくってよ」と余裕の高笑い。

 そんなことを言ってるバチがあたったのか、後半35分に、ほんとに1点取られて3−2。
 こうなると早く試合が終わってくれ、とひたすら祈る。考えることは皆同じらしく、ヴァスティッチはロスタイムにコーナーキックを蹴るとき、イエローカードをもらっていた。多分遅延行為だろう。

 終わってみれば3−2でグラーツの勝利、非常にエキサイティングな試合だった。終了の笛と同時に、ファンへの挨拶もなしで、ドレッシング・ルームへ直行するヴァスティッチ。思った通り、盛り上がりに欠ける男のようだ。
 駒崎さんは初めて彼の怒ってるところを見たらしく「あの人怒るんだ!」と喜んでいた。それでも次の瞬間には無表情に戻っていて、実にマイペースなお人柄。
 帰国後、ファンショップで買ったビデオを見た駒崎さんは「ヴァスティッチが笑ってたり踊ったりしてる!」と驚いていた。一体どんな人だと思ってたんだろう・・・。

 大人しくホテルに戻ろうと市電に乗ったら、そこはまだまだエキサイトしたりない人々で溢れていた。クラブのテーマソングを合唱し、足を踏み鳴らし、天井を殴りつけ、扉の非常用開閉装置をオモチャにする、とやりたい放題。

 とうとう途中の駅で、自動ドアが閉まらなくなってしまった。運転手が降りてきて、手動で扉を閉める。これが又スキンヘッドの強面なうえ、無表情な中にも腹が煮えてる様が伺えて、とにかく怖い。
 一触即発か、と冷や冷やしながら、頼むから早く駅について〜〜〜と心の中で祈りまくる。途中で大勢降りたので、それからは平和になった。ヨーロッパのサッカーのサポーターは熱い。

 晩御飯を食べに駅の食堂に入ったら、オーダーストップで、もうドリンクだけだという。背の高いウェイターは、親切にも近所でまだ開いてる店を教えてくれた。ありがと兄ちゃん。明日はもっと早く来るからね。

 パブのようなその店は満席だったが、とにかく御飯が食べたかったので、大きいテーブルへ行って相席を申し込む。
 向かいの角では男性二人が、ひそひそと深刻そうに話していたが、私達が来ると黙ってしまった。ドイツ語は一言も分からないので、遠慮なく喋ってくれていいのよ。
 さらにハイ・ティーンらしき男性三人連れがきて、結局3組の相席。こんな時間に、不良(笑)だわ、と思ったら、ジュースを注文していた。こっちは女3人でビールなのに、グラーツの不良(違う)は健全だなあ。

 まだ地元料理を試してなかったので、「ウィンナー・シュニッツェル(薄切り牛肉のカツレツ)」のサンドを注文。それは、自分の顔ほどもあるパン(直径約25センチ)にカツとキャベツが敷き詰められた、フリスビーのようなサンドだった。
 ナイフとフォークもついていたが、一口目だけかぶり付いてみた。美味しい・・けど、持ち上げるのも一苦労で、上のパンを剥がして、オープンサンドにして食べた。
 どうしてこんなに一皿が大きいのかなあ。毎日お腹が苦しくなるまで食べているので、帰る頃には胃拡張になってるかもしれないな。

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