9月4日 木曜 やや曇り

 9時半ごろ起きて、のこのこ新聞を買いに行く。トウコさんは昨日取ったフィルムを現像に出していた。蛋達(カスタードタルト)を買って、部屋で食べよう。フロントで、部屋にお湯を届けて欲しいと頼んだら、学校で習った「滾水(沸騰水)」といっても通じない。繰り返していると、兄ちゃんは「おお!」と言って笑いながら、「熱水?」ときいてきた。それだと熱湯じゃなく、ただのお湯みたいなんだけど、面倒だからいいや。

街中を飛ぶ飛行機 出掛けにキーを預けに行ったら、フロントにさっきの兄ちゃんがいて、私の顔を見て「熱水〜」とぬかしよった。これでこのホテルでの私の渾名は「熱水小姐(お湯娘)」に決まったも同然か。とほほ。

 さて、待ち合わせはNさん、Kさんの泊まっているカオルーン・シャングリラホテルのロビーである。ここは一流ホテルなので、内装はゴージャスだし、従業員の態度も洗練されている。が、なんといってもレストラン「香宮」なのだ!レトロな内装や、ウェイトレスのチャイナドレスも美しいが、春巻きとマンゴプリンなのだ!以前来た時、又の来店を固く誓っていたので、泊り客がいるのをいいことに、ちゃっかり予定に組み込んでおいた。ふふふ、これで今回はテーブルチャージがいらないぞ(せこい)。

 肝心の注文なのに、皆「まかせる!」と、1時間で現像の上がったアーロンの写真を見ているばかり。相談役にKさんを指名し、メニューのなかから読めるものをさがしては、自分達の好きなものばかり注文する。テーブル一杯に春巻き、蝦蒸餃子、叉焼包、粽、野菜餃子、海鮮餃子などが並んでいく様子にうっとり。人数がいるっていいなー。

 前回葱とタケノコだった春巻の具は、北京ダックになっていた。くずさないようにゆっくり噛むと、皮が外から、一層一層割れていくのがわかる。野菜餃子の上には青々した茹でブロッコリーがのっていて、皮も緑色で綺麗。アーロンの写真を回し見しながら食べていると、店員が覗いていった。果敢にブロークンカントニーズでぶつかっている我々を怪しい客と思っているのか、妙にかまってくれる。

 酔っ払い蝦(生きた蝦を紹興酒に漬け、溺死寸前にしてすかさず茹でる、という残酷料理)の希望が出た。メニューにはなく、英語でも広東語でもなんと言うのかわからない。議論する一同を眺めていたお兄さんは、やおら「オー、ヨッパライビ」(エにイントネーションがある)とのたまった。いったん厨房に消えた彼が、「330HKドル(約5000円)」と書いた紙を持ってもどってきて、「いいか?」と聞く。6人もいるので気が大きくなってオーダーしてしまった。

 ガラスのボールに、蝦と紹興酒を入れて蓋をする。中で蝦がびちびち暴れるのを、神妙な顔で見守る日本人。けっこうシュールだ。大人しくなったところで蓋を開けたら、フェイントをかけていたらしく、最後の一あがきで紹興酒が飛び散った。テーブルの脇にコンロを仕込んだワゴンが用意され、蝦茹で担当(嘘)のおじさんが、茹でてくれる。若い者にはまかせられん仕事のようだ。彼とウェイターの、「マントウ(饅頭)は日本語でなんて言うの?」「マンジュウ」などという会話に聞き耳をたてているうちに、蝦はホカホカとご昇天。アツアツの蝦を手で剥きながら、わき目もふらずにかぶりつく。我に返ると、皿には積まれた殻だけが…。酔っぱらい蝦の醍醐味は、待ってる間にあるのだな、と自分を納得させるのだった。

 フィンガーボールには、レモンスライスを浮かべたウーロン茶が入っている。優雅〜。私がご満悦の頃、ウーロン茶のフィンガーボール初体験だったNさんは、飲んでいいのか悩んでいたらしい…。彼女が慎重な性格でよかった。

 豚とリンゴのスープには、ほかほかの肉が添えられている。これはきっと具で、とりわけて食べると信じていた私に、Eさんが「これでダシをとったって見せてくれてるんじゃない?」と言った。用心して見守っていると、ウェイターがスープをサーブしてくれた後、肉は放置されたままであった。ありがとうEさん、二度とこの店に来られなくなるところだったわ。

 満腹でいい気分になったところで、お部屋拝見コーナーへ。ロビーやトイレはゲストでなくても入れるが、客室はそうはいかない。ホテルチェックを密かな楽しみとしている私には得がたい機会だ。さすがシャングリラ。廊下は広く、絨毯は厚い。エレベーターの床には、「Thursday」と書かれた絨毯が敷いてある。当然、毎日取り替えられるのだ。ドアも大きく、部屋は広く美しい。パンフレットによると、ツインルーム一部屋で、3LDKの我が家とさして変わらない広さ…。思わずじっと手を見たりする。バスルームの床は天然石で、8〜10畳ほどはありそうだ。もちろんバスローブ付き。ベッドはどちらもダブルで、4人がけのソファセットとファックスがある。電動式のカーテンはベッドサイドでコントロールできるのだった。「ソファでいいから泊めてくれないかな」と、一瞬本気で考える。記念写真を撮って、順番にトイレを借りた。広くてなんだか心細かった。

 再び信和中心へ、生写真を買いに行く。昨日のコンサートの写真がもう並んでるだろう、と思ったら既に売り切れ続出で、またも焼き増しを日曜にとりにこい、と言われてしまう。店内はアーロンファンばっかりだ。人気者〜。居並ぶアイドルショップをはしごして、力いっぱいアーロングッズを買いあさるのだった。

夕暮れの街中を降りてくる飛行機 荷物を置きにホテルに戻って、6時にロビーでEさん、Uさんと待ち合わせ。啓徳空港の駐車場屋上で夜景を見るのだ。なぜなら、アーロン主演の映画『浪漫風暴(邦題「野獣の瞳」)』のロケ地だから。タクシーに乗って「機場(空港)」と言ったら、なぜかJALの出発ロビーに降ろされてしまった。うろうろエレベーターを捜して、屋上へ。ちょうど夕暮れ時で、空の色が刻々と変わってゆく。デートスポットと聞いていたのに、カップルの姿はなく、アラブ系のおじさん達や、携帯で話してる3人組のおじさんしかいない。…もしやその手の人専門のデートスポット?場違いなところに来てしまったかも。とはいえ、ちゃんと降りてくる飛行機をバックに写真をとって、満足満足。これ以上まわりが怪しくならないうちに、さっさと退散することに。

 暗くなってから、やくざ映画の舞台でおなじみの廟街(テンプルストリート)へ。トウコさんのお友達、在住日本人のSさんと約束なのだ。早めについたので、近所をぶらぶらする。台所用品の店には、鳳凰の形などの、凝った野菜の抜き型が売っている。雑貨屋をのぞくと、スリッパを包装してあるビニール袋に、なぜか日本語で「ティッシュケース 情事のときに」と書いてあって、怪しさ大爆発。なぜスリッパが入っているのかはさておき、もとはどんなティッシュケースが入っていたのだろうか。すごく気になる〜。

 道端で、どこで食事するか相談していると、片言の日本語をしゃべるおばちゃんが寄って来て、目の前の店に連れ込まれてしまった。これが今にも青竜刀持ったチンピラがやってきそうな、香港映画臭い雰囲気。路上に折畳式のテーブルとプラスティックの椅子を並べてるのだが、どちらもベタベタしてるし、取り皿も汚れている。コップを使うのもためらわれたので、缶コーラを頼むが、内心結構あせっていた私。

 料理の注文もしないうちに、隣の店が看板の修理を始めて(なぜ今頃…)、黒い埃が雪のように降ってきた。表情のない私達を見かねたのか、さっきのおばちゃんが室内の席に移してくれる。ありがとう、おばちゃん。嬉しくて涙が出そうよ。中はテーブルも椅子も綺麗だったが、先程のショックで用心深くなってたので、ついティッシュで皿を拭いてしまう。

 気を取り直してご飯を注文。シャコを食べるのが目的なので、ほかはSさんにおまかせ。青菜炒めはニンニクの香りがたまらないー。上品な店ではこうはいかないわ。焼きうどんもどきは、盛りすぎてテーブルに並べるときに既にこぼれていた。でも美味しい。見ると、どのテーブルも食べこぼしでけんかの後のようだった。店のおじさんが、客の注文で水槽の蝦をすくっているのを眺めつつ、シャコが来るのを待つ。

 来た〜。丸ごと素揚げしたのが山盛りになっている。ところで、シャコの外観というのは虫っぽくて、『風の谷のナウシカ』に出てくるオウムに似てる。それがウジャウジャ積まれている様は、虫嫌いの私には結構来るものがある。しかしニンニクが効いていてものすごくいい匂いがしてる。ばりばり食べる周囲に、募る危機感。「このままでは私の分はなくなってしまう!!」

 アツアツで、殻が固くてとげとげなので、なかなか剥けないし、剥くと身はちょっぴりだった。指が痛いのを我慢してひたすら剥く。蝦と違い、足の部分はどうしても外れないので、そこを持ってかぶりつく。うまい〜〜〜。殻にひっついて残る身がもったいないくらい。「いやー、こわいー、食べられないー」と裏声をあげていたEさんも一口食べると静かになった(笑)。

 腹ごなしに男人街を散策。屋台ではまだ返還グッズを売っている。残り物かしら。街の雰囲気は女人街とさして変わらず、危ない感じもしなかったが、お巡りさんは多かった。(裏通りには売春宿が軒を連ねている)。Sさんも突然IDカードを見せろ、と言われたことがあるとか。広東オペラの芝居小屋を見たかったが、場所がわからずあきらめる。2階建てバスの、2階の先頭に陣取って、対岸の香港島のネオンサインを眺めながら、ホテルに帰った。

 ホテルの裏の果物屋で、本日お勧めの桃ジュースを注文。なんで12時に果物屋が開いているのか、不思議な気もするが香港だからしょうがない。隣の花屋も開いていて、24時間営業と書いてあった。ジューサーが空だったので、冷蔵庫から新しいモモを出してくれ、皮付きのままジュースにしてくれる。…ちゃんと洗ってあるんだろうな…。気にしないことにして、ストロー咥えたままホテルに帰還。安宿は気楽でいいや。出来たて桃ジュースは、日本のと違ってクラッシュアイスが入ってなくて、モモを食べてるのと同じ味だった。

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